ロマンの香り

 ある日差しの暖かい午後。京都・八坂の高麗ギャラリーカフェ2階への階段を昇ると 窓際に白く光るお洋服が揺れていて、気付けば高麗恵子さんの笑顔の横に その緩やかなシャーリングドレスはありました。胸元に幾つかのラインストーンが施され 縦にピンク系の染めが入った白い服を手にされた高麗さんは「これ、私がマーブリングしたの。岩村さんにぴったりだわ...」そう仰って宛ててくださり…自分は そのドレスの放つ光に魅了され、すぐいただき身に着けました。すると、今まで経験したことのない軽やかな体感に驚いたのです。 

これが Keiko Komaマーブリング作品との初めの出会いでした。 
小さい頃からお洋服が好きで、やはり服好きだった母や叔母が オートクチュールでオーダーした服の仮縫いに 自分はいつも付いていき工程をずっと見ていたそうで、以来 人各々の身体に合う衣服にとても興味を持ち育ちました。この世の既製服の多くを着用してきましたが、高麗さんのマーブリング作品を着た感触は どれとも違い、そのフィット感は着ている感覚が無いかのようなのです。空間と一つ...。高麗さんの詩や文で以前から伺ってきた御言葉でした。自分はマーブリング衣服を纏い 初めて空間と溶け込むような不思議な心地良さに充たされ、その意味を実感し始めました。
伺えば、マーブリング制作の過程は水と光と風。マーブリング作品 誕生当初は 主に京都・高麗ギャラリーカフェの中庭で八坂の塔を仰ぐようにして、流れる水に様々な色を垂らし 光と風との一瞬の間合いで染め上げると 高麗さんから御聴きしました。その ‘ 瞬間 ‘ で出来上がる作品には意図や意識の介在する余地はなく 自然と一体。だから空間と溶け込み舞うような模様が生地に刻まれ、この世にたった一つの作品が生まれるのだ、と。
そして比叡山の「御茶室」が建立されてからは、いだきしん先生のご提案で その敷地の一画に 水流豊かなマーブリング作業場を創られ、比叡山に流れる水、吹く風、光に依て 更に美しい作品を生み出されています。その一度の作業で生まれる作品は数多く、ですが必ず 人と人との或る運命の邂逅の如く 誰かと作品が唯一の出会いをして その方の許に行くのです。高麗恵子さんの心模様作品は、マーブリング以外も、ヴェネツィアン・ネックレス、バッグ、カトラリー、書...手掛けられる全てがそのような、まるで何処に所在するか 意志を持っているかのように光を発する作品ばかり。光を求め 光に出会い、長年に渡り自分の許にいらした方々(作品)は多種様々、展示会を開けるほどになりました。
そして 作品それぞれの出会った時は違うのに 共通する傾向、香りがするというのも、個々の内面の光顕すKeiko Koma作品ならでは…。先日、此処を訪ねてくださった高麗恵子さん御自身から、自分の巡り会った作品はどれも『ロマンの香り』とお伝えくださいました。
ご覧になった皆さま お一人お一人、ロマンの香り薫る 魂の出会いがありますことを心より望み、新たな一歩、共に歩ませていただけましたら幸いです。